Anthropic、未解明の巨大タンパク質複合体「Vault」の3D構造をClaudeで初解明
Anthropicの生物学研究チームは、機能が長年未解明だった細胞小器官「Vault(ヴォールト)」に類似する原核生物の3D構造を、Claudeの全面的な支援によって初めて解明しました。Claudeは配列検索からDNA設計、クライオ電子顕微鏡データの解析まで担い、通常数週間かかるモデリングを34時間に短縮。AIが基礎科学研究を加速させる実例を示しました。

私たちの細胞の中には、リボソームの約3倍という巨大な樽型のタンパク質複合体「Vault(ヴォールト)」が存在します。1986年の発見以来、大聖堂の丸天井に似たこの構造が何の役に立っているのか、生物学者たちは40年近く解明できずにいました。
ショウジョウバエや線虫などの代表的な実験生物には存在せず、マウスのVaultを欠損させても元気に生きてしまうため、機能の特定は難航を極めていました。そこでAnthropicの生物学研究チームは、自社の生成AI「Claude」を研究の全工程に投入し、より扱いやすい原核生物(細菌やファージ)のVault様構造を世界で初めて3Dマッピングすることに成功しました。
3日の精製作業を90分に短縮した「型破りな提案」
細菌由来の構造なら、培養も速く実験が格段にしやすくなります。過去に原核生物のゲノムから似た配列は見つかっていましたが、実際にVaultとして組み上がるかは誰にも分かっていませんでした。
チームはClaude Scienceを使い、約150億個の予測タンパク質データベースを探索。細菌29門と古細菌4門から候補を絞り込みました。選び出した44種類のタンパク質をもとに、Claudeが宿主細胞に最適化したDNAを設計。大腸菌に導入したところ、15種類で可溶性タンパク質の発現に成功しました。
圧巻だったのは精製プロセスの短縮です。従来の真核生物Vaultの精製はショ糖密度勾配遠心法で3日ほどかかります。チームがサイズ排除クロマトグラフィーを試そうとした際、Claudeは「変性タンパク質の塊が混ざる」と当初は反対しました。しかし人間側が進めると決めると、Claudeは最適なカラムを選び、さらに「破砕した細胞液を事前精製なしで直接カラムにかける」という大胆な方法を提案しました。
高価なカラムを詰まらせるリスクがある賭けでしたが、結果は見事に成功。細胞から電鏡グリッドの準備までが、わずか90分で完了しました。
34時間で3Dモデル構築、容量20%増の改変も
クライオ電子顕微鏡による構造解析も、通常なら手作業で数週間から数か月を要する工程です。AnthropicはClaudeを自社のマルチエージェント基盤に接続し、オープンソース解析ソフト「RELION」の設定から実行までを担当させました。
人間が分析方針を助言しながら進めた結果、最初の全体3Dモデルはわずか34時間で完成。最終的なマップも約1週間で仕上がりました。今回特定されたファージ由来のVault「L05」は96個のタンパク質で構成され、ヒトの78個でできた構造よりも背が低く横に広い形状で、内容積は約25%も大きくなっていました。
さらにClaudeの協力のもとで15種類の改変体を作成し、特定セグメントを重複させることで内容積をさらに20%拡張した巨大Vaultの作製にも成功。また、Claudeは構造内に「コエンザイムA」に酷似した未同定分子が収まるポケットを発見し、未知の機能を探る貴重な手掛かりを残しました。
Vaultの第一発見者であるLeonard Rome博士も「機能の解明は依然として極めて難問だが、Anthropicがこれほど質の高いデータを出してくれたことで、他の研究者もこの問題に参入してくるだろう」と期待を寄せています。
なぜ重要か
今回の成果で最も注目すべきなのは、AIが科学の「ウェットラボ(実験現場)」にどう食い込めるかを示した点にあります。
従来の生物学におけるAIは、AlphaFoldのような構造予測や文献要約といった特定の計算処理に限られがちでした。しかし今回の事例でClaudeは、DNAの設計からプロトコルのリスク評価、高価な機材を扱う現場での大胆なプロセスの提案、さらには専門解析ツールの自動実行まで、まさに優秀なポスドクのように実験サイクル全体を伴走しています。
数週間かかる解析を34時間に縮め、3日の精製を90分に圧縮できれば、研究の試行回数は劇的に跳ね上がります。これまで「手間がかかりすぎて割に合わない」と放置されていた未解明の基礎生物学の謎に、再び光を当てる道が開けたと言えます。
もちろん、AIが単独で科学的発見を成し遂げたわけではありません。Anthropic自身が明かしているように、Claudeは途中で初歩的なミスを何度も犯しており、人間の専門家による軌道修正が不可欠でした。それでも、LLMに計算資源と実行権限を与えれば基礎科学のペースそのものを塗り替えられることを、この成果ははっきりと証明しています。
情報源 (2)
- anthropic.com(新しいタブで開きます)原文anthropic.com
- x.com(新しいタブで開きます)議論x.com